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ここで紹介されている本の殆どが新しくない本なので、「え、その本今頃読んだのか?」と思われてしまうかもしれません。たまには新しい刊行物も紹介しておきましょう。
Cadalso, José de. Lugubrious Nights. Trans. Russell P. Sebold. New Mexico: University of New Mexico, 2008.
ごめん、やっぱり古い(オリジナルは18世紀)。刊行年が新しいので容赦してください。
さて、僕の言説ではしばしば『鬱夜』という作品が言及されるのですが、これは1771年くらいから1774年くらいまでの時点で書かれたと推定されている、スペインの作家(職業軍人でもあった)ホセ・デ・カダルソのNoches lúgubresという作品のこと。
全ヨーロッパ的なロマン主義の嚆矢としてだけではなく、作品としても大変面白いので、僕が大変好きな作品ですが、残念ながら日本語訳はまだありません。なので、僕がどんなに言及しても、実際は読めないのです。
そんなこともあって、『鬱夜』に関しては早晩僕が日本語にしようと思っているのですが、日々の些事にかまけているうちに馬齢を重ねてしまっているので、なかなかそこまで到達出来ずにいるのです。
じゃあ、翻訳で読んじゃうから教えてよ、というあなた。18世紀スペインの文学は殆ど英訳がありません。困っちゃうね。フランス語には1821年にLes Nuits lugubresとして翻訳されているのですが、それ以降は多分ないはず(お、95年にミラノでイタリア語版が出てる)。
さて、「光の世紀(18世紀のことね)」研究の大物というのが二人います。ひとりは英国のNigel Glendinning、もうひとりがアメリカのRussell P. Seboldです。どちらも業界では泣く子も黙る巨人で、カダルソどころか18世紀を中心に前後2世紀くらい十分論じられる碩学。いや、つまりなんでも論じられるのだけれど、残念ながらどちらも既に高齢で教職からは退かれていると思います。
さて、そのSeboldは「自分にとって仕事の言語はスペイン語だから」と殆どの論文をスペイン語で書いているので、まさか英語で、しかもこのような形で翻訳を?と驚きを覚えましたが、人生の晩節に入って稀代の碩学が後に残したいと思ったのが、18世紀研究の後進への足がかりだったのだろうと感じます。
クロス装、金文字。薄手の本ですが、カダルソと人生の半分以上を共に過ごし、現在大西洋の西側で最強の18世紀研究者ですから、内容は言うに及ばず。格調高いスペイン語を駆使する御仁は、当然母国語でも闊達な翻訳のメチエを見せる。
冒頭に充実したイントロダクションが収録されていますが、これは主に『ABC』という新聞において、スペイン語で発表された文章を英訳したものです(Sebold, Russell P. Ensayos de meditación y crítica literaria. Salamanca: Ediciones Universidad de Salamanca, 2004でまとめて読める。)。ただ、新聞掲載の折は参考文献はついていませんでした(スペースの都合上しかたがなかった。とはいえ、業界人が見ればすぐに分かるようになっている)。こちらではそれを追加して、もはや完全無欠。カダルソとコンディヤックをいち早く繋げたのはこの人だ!
Sebold一人が馬車馬のように働いても、今日の新大陸における18世紀研究の精華・成果は日の目を見なかったはず。彼の教え子達が世界中に散って、物凄いことになっている18世紀研究です。アメリカにおけるUniversity of Virginia, University of Pennsylvania、カナダのMcGillがさしあたっては最も重要な拠点。今からやりたい人は是非そっちへいってください。そして僕に色々教えてください。
Dr. Russell P. Seboldに(彼はMr. やProfessorよりもDr.と呼ばれるのを好むそうです)僕は一度お会いしたことがあって、英語で(僕のスペイン語は悲惨だからさ・・・)言葉を交わしたことがあります。その時に彼の校訂したカダルソの作品に署名を頂いて、それが僕の一生の宝物になっている。背筋の伸びたかっこいい方でしたよ。
Glendinningともども(この二人、ささやかながらかつて紙上で論戦をしたことがある。ものすごく発展的な解決を見ました。どちらも一流だね!)、いつまでも長生きして欲しいです。



