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2009年5月11日 (月)

食わず嫌いは損をする。

三浦しをん『私が語りはじめた彼は 』新潮文庫。

食わず嫌いは損をする。そうでなくても、人生で読むことの出来る本は限られているというのに。それでも、自分ひとりでは手に取らなかったような作品に、誰かに紹介していただいたおかげで出会えるというのはとても嬉しいことです。

僕よりも随分年若い、それでいて深い書物愛をお持ちの方のブログで紹介されている本は、一冊でも多く手に取りたいと思って生活している。そうした出会いの中で、自分の狭隘な視野になかったものと、自分が集中して考えてきた何ごとかが繋がるという稀有な瞬間もあるのだと考えることが、いわば文字を通じた悠長な情報伝達の醍醐味である。

三浦しをんさんの名前を見ずに過ごすことは一日としてない、この数年。それくらい人気作家であるし、注目を集める書き手であるのだけれど、それゆえに手を出しづらいと思っていた感がある。典型的な食わず嫌いであるけれど、やはり自分は間違っていたと居住まいを正す。

とにかく、突飛な文学は読みたくない、と思う人にはうってつけ、それくらいスタンダードな、そう「ありきたりな」文学の伝統を見事に踏襲している。このありきたりさは、この作品の中で、ひとつの技術として使われているもので、彼女のその他の作品にはもっと意欲的な実験が盛り込まれているのだけれど、それは彼女の書き手としての実力に感服した人が、もう一度驚くためにここでは沈黙しておきます。

気になる題名は、はて「なんだったか?」と思ったけれど、巻末に但し書きがありました。ひとつにはその作品へのゆるやかなオマージュなのだと思う。

まずは、よい文章の書き手による、なめらかな日本語に酔いたい一冊。構成の妙、伏線の妙もおのずと香り立つ。佳作。

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